Harmonie "Diary" Chromatique

Harmonie Chromatiqueの日記帳です。

ニトロプラスの件~社会を作り替えること

ニトロプラスさんが同人二次創作の頒布を許す範囲を大きく絞り込むと発表し、今週前半はあちこちが騒然でした。

そりゃ当たり前で、「部数200部まで、売り上げ10万円まで」の範囲と言われると既存の活動がダメージを受けます。

日本著作権法に基づけば、この件はあくまでニトロプラスの意向が最優先されます。それが法律である以上日本社会全体の仕組みであり、ニトロプラスの発表に**従わない**自由は日本国内では誰にもありません。*1
なんですが、同人社会に対するインパクトを考えるとニトロプラスの発表も褒められたものではありません。
今回の発表は、影響範囲が大きいです。ニトロプラスは商業規模の二次創作を規制したいと考えていたのでしょうが、この発表内容では商業的とは言いがたい二次創作さえ規制されます。

200部/10万円というと、ちょっとした女性向け同人アンソロですらNGになります。アンソロで1000円未満の薄い(?)本は珍しいですし、ニトロプラスの女性向け作品は同人人気も激しいですから、簡単に売り上げ10万円はたどり着きます。それがNGになります。
さらに、TPP後の非親告罪化を見据えるとこうなります:この発表はニトロプラスの公式の意思ですから、警察としても「原作者が許していない著作権侵害であること」を明確に認識できます。言うまでもなく、10万円を越える売り上げを出した薄い本の作者を簡単に逮捕できるようになります。
かつて、二次創作同人が黙認されることのボーダーラインは「版元から文句を言われたら取り下げる」でした。それが、「逮捕されるかされないか」に変わるわけです。ボーダーライン越えのリスクが著しく大きくなる。

ニトロプラスの判断は、これだけの大きな影響をもたらすものです。
影響が大きな判断を役員の一人が海外渡航中に公式発表し、あげくのはてに帰国した役員が「こりゃまずい」と速攻で発表を取り消すようなクオリティだった、というあたり、本当に彼らは「熟慮して精査の上で」発表したのでしょうか?
今回の発表は多くの顧客との関係、さらには彼らが文化的存続基盤として依って立つ同人社会そのものを変えかねないものです(という認識が、彼らにはありますよね)。そういう発表を、熟慮せずに出せるというのはちょっと会社そのものの判断プロセスが甘いなーとしか思えません。

ぶっちゃけ、今回の件は顧問弁護士を巻き込んだ熟議をやらなきゃ出せないくらいの感覚が普通だと思うんですけどね……

社会を一気に変えていくには、やっぱり熟慮が必要だと思いますよ。リアル社会でも武雄や大阪でいろいろドラスティックな試みが仕掛けられてますけど、想定外の副作用が出たりして大混乱になってるじゃないですか。武雄は地元市民の怨嗟の声が山ほど、大阪は公募校長が不祥事起こしまくり。
少しずつ変容させる程度なら気軽なリリースで変えていけばいいのかもしれないけど、大規模な改革こそ独りよがりに実行しちゃいけません。

というか、商業的なレベルで同人やってる人たちにとっては、今回の件でも判断変わりませんよ。
ニトロプラスでは大規模同人不可能なんだから別のジャンルに移るだけのこと。

*1:やったら違法行為であり、損害賠償請求or場合によっては刑事処罰を受けるだけの話です